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日本の歴史を見直す編

−書評−


書 名 出版社 価格 著者 寸 評
角川書店 \2,095 ヘレン・ミアーズ 最初、この書名にとまどいを感じました。しかし、終戦後3年を経た1948年にGHQの高官だった著者の透徹な知性に夢中になって読み進める中で理解することができました。著者は日米が出会い、お互いがいかなる「政治的擬制」を尽くして1945年の日本の破滅に至る道を歩んだかを、米国の二重標準、不誠実、酷薄を厳しく非難しながら描き出してみせます。一方で最近よくある日本人のかの戦争に対する幻想もみごとにひっぱがしてくれます。凶暴だと自分たちが宣伝したような日本を創り出したのは米国や英国の列強自身であったこと。そしてその日本が主張していたことを1948年当時の米国は主張し始めざるを得なくなってしまっていること。その状況を持って著者は日本は米国国民にとって鏡のような存在であると主張します。彼女は一貫して、「私たち」と米国と米国民衆のことを呼びます。民衆の知性こそが国家の政治的擬制を消失せしめるという理想を持っているのです。 この強靱な知性と透徹な意志が日本人の私をしてこの本を涙無くしては読めない本にしているのです。 読者はいまだに多くの「政治的擬制」が交錯する現代で、この状況が続くなら、人類の先にあるのはやはり60年前の日本人と同様、砲撃で家や財産を吹き飛ばされ、爆撃に逃げまどい、戦車に追われ、熱線に焼かれるような境遇しかないということを理解せざるを得ません。1948年に2005年の今こそ必読の書を著した著者に心から尊敬を捧げたいとおもいます。
草思社 \1,600 エリック・シュローサー 話題の書です。主題はもちろん、ファーストフードなわけですが、その背骨はグローバルリアライゼーションにたいする警鐘にほかなりません。グローバル経済、多国籍企業、こういったものが、文化や伝統を破壊し、人間の精神や健康までも侵してしまう危険な対象であることをファストフードという実例で示してくれる、希有な本です。アメリカは建国以来、その時代、時代に合わせてスローガンを巧みに変えながらフロンティアを前進させ続けてきました。
もはや、地球を一周したフロンティアはまさにアメリカ人そのものも傷つけ、踏みつける対象になってしまったということでしょう。
今度はリアライゼーションを行うクラスと行えないクラスに別れて、また新しい1周をアメリカは始めているのです。野放しの経済システムは野放しの植民地主義と同じ事を為すのだという証拠を私達に突きつける一冊です。
TBSブリタニカ \2,796 ジョン・W・ダワー どうかすると、私達の歴史観は第二次世界大戦の前後で大きく分断されていることに気づくことがあります。しかし歴史はつねに連続しているわけで、太平洋戦争の原因が日中戦争にあるのではなく、より根本的な人種問題にあるのではないかという疑問をまさに裏付けてくれた本です。現代においても生き残るこの人種偏見という亡霊をいかに消滅させるか、身近な感覚で捉えなおしていかなければと感じる今日、このごろです。
5月書房 \1,900 レジナルド・カーニー さまざまな映画や書物でアメリカの黒人が最近までおかれていた悲惨な状況を知ることができます。その出口の見えない悲惨の中で日本を希望として見ていた黒人が多くいたというのは、新鮮な驚きです。
日本という国が世界の歴史に与えたインパクトは私達が学校で学んだよりも遙かに大きく、高々としたものであったことが分かります。